ここまで負けなしの6連勝で勝ち進んできた2017WBCの侍ジャパン。
数ある勝因のなかで最も重要な要因となっているのは好調な打線。
ここまで1試合平均7.7得点と爆発的な攻撃力で何度も逆境を跳ね除けてきた。
強豪国との対戦が続いた二次ラウンドでは全3試合いずれも8得点と高いレベルの相手にもその攻撃力が通用することを証明した。
なかでも目を引いたのが長打力。
勝負ところで本塁打で流れを引き寄せるスタイルは今までの日本代表になかった。
この結果をもたらした最大の要因は2011~2012年に導入されたいわゆる『飛ばない統一球』なのではないか。
そこで今日は統一球問題がもたらしたものについて話していく。
目次
WBC大会別にみる打撃成績の比較
まずこれまでのWBC大会別の打撃成績の比較からここまでの侍ジャパンがいかに強力な打線かを振り返ってみる。
【WBC大会別のチーム打撃成績】
大会年度 | 試合数 | 得点数 | 平均得点 | 本塁打 | 本塁打平均 | 打率 |
2006 | 8 | 60 | 7.5 | 10 | 1.33 | 0.311 |
2009 | 9 | 50 | 5.6 | 4 | 0.72 | 0.299 |
2013 | 7 | 44 | 6.3 | 8 | 1.27 | 0.279 |
2017 | 6 | 46 | 7.7 | 10 | 1.30 | 0.319 |
試合数、対戦相手などに違いがあるため単純に比較できない部分もある。
ただ、この表からわかる通り、今回の侍ジャパンの打線は非常に強力な打線。
2006年も好成績をおさめているが、一次リーグの格下中国、チャイニーズ・タイペイ戦で18、14得点を上げている分通算成績は高くなっている。
その2試合を除くと平均得点は4.6にまで落ち込む。
逆に言えば2017年はまだ決勝ラウンドの強豪国と対戦していないため、これから下がる可能性もある。
しかし、それを考慮しても今回の侍ジャパンの打線がいかに強力かは十分この数字からも見て取れる。
あの強力オランダ打線が日本と同じ6試合で45得点ということを考えると、日本が世界の強力打線と比較してもひけをとらない打線であることがわかる。
なかでも一番目を引くのが本塁打。
現時点で既に歴代一位タイの本塁打数を放っている。
これまではどちらかというと機動力や小技を絡めて得点するスタイルが中心だった歴代日本代表にあって、本塁打で流れを引き寄せるスタイルは今までになかったものだ。
統一球問題とは
ではなぜここまで強力な打線が形成できたのか。
私はその原因が2011~2012年に導入された『飛ばない統一球』にあると考えている。
2011~2012年にかけて下記の理由から統一球が導入された。
球団ごとに異なるボールが使われていたことに対する批判や、WBCなどの国際試合で採用されるボールに近づけるという目的などから、2011年度から12球団全てでミズノ製の低反発ゴム材を用いた統一球を採用した。
しかし、野球の華である本塁打数が激減したことによりファンからは批判の声が上がった。
また統一球が実際に国際試合で使用されているものと異なったため本来の目的を果たしたとは言い難く、反発係数の隠蔽問題などがあり、プロ野球ファンにとっては忌まわしい記憶となってしまった。
結果、統一球は2年間で改正された。
統一球に苦しめられたスラッガーたち 乗り越えて掴んだ確かな技術
この統一球問題はとりわけ野手に大きな影響を与えた。
統一球導入前の2010年と2011年を比較すると両リーグあわせて1605本から939本に激減した。
2001年~2005年のいわゆる『飛ぶボール』時代と比較するとその減少数は約半分~3/4にまで及ぶ。
年代 | セ・リーグ | パ・リーグ | 合計 | 侍ジャパン野手プロ一年目 |
2000 | 818 | 753 | 1571 | |
2001 | 781 | 1021 | 1802 | 内川 |
2002 | 826 | 869 | 1695 | |
2003 | 987 | 1000 | 1987 | |
2004 | 1074 | 920 | 1994 | 青木 |
2005 | 920 | 827 | 1747 | |
2006 | 821 | 632 | 1453 | 松田(1)、平田 |
2007 | 818 | 642 | 1460 | 坂本 |
2008 | 728 | 752 | 1480 | 中田(3) |
2009 | 769 | 765 | 1534 | 大野 |
2010 | 863 | 742 | 1605 | 筒香(3) |
2011 | 485 | 454 | 939 | 山田(2)、秋山 |
2012 | 454 | 427 | 881 | 菊池 |
2013 | 714 | 597 | 1311 | 鈴木 |
2014 | 738 | 623 | 1361 | 田中、小林(1) |
2015 | 571 | 647 | 1218 | |
2016 | 713 | 628 | 1341 |
※1 赤掛けは飛ぶボール、青掛けは飛ばないボール時代
※2 赤字は2017大会で本塁打を放った選手、()内は本塁打数
一番右を見てわかる通り、ほとんどの侍ジャパンの選手が飛ぶボールを経験しておらず、若い時期に飛ばないボールを経験している。
若い時期に飛ばないボールを経験したことで、彼らは高い打撃技術の取得を目指さざるを得なくなった。
特に中田、筒香の両者は入団直後から長距離砲として期待されていたにも関わらず、ちょうど統一球が導入されたことで持ち味の長打力を発揮できない時期が続いた。
【中田、筒香年度別本塁打数】
年度 | 中田 | 筒香 |
2009 | 0 | - |
2010 | 9 | 1 |
2011 | 18 | 8 |
2012 | 24 | 10 |
2013 | 28 | 1 |
2014 | 27 | 22 |
2015 | 30 | 24 |
2016 | 25 | 44 |
※黒字は統一球期間
しかし、若い頃に本当にボールを飛ばすにはどうすべきかを真剣に悩んで試行錯誤したこが結果的に彼らの打撃技術を高めた。
彼らの成績は飛ばないボールを利用しなくなってから上昇しているが、その原因は彼らが若い時期に真剣に打撃練習に取り組んだことも関係している。
このことは他のスラッガーにも言え、坂本、山田選手らも若い時期に試行錯誤しとことが国際大会でも通用する高い打撃技術取得につながっている。
また、年齢的な問題もあるものの、2017年時点で飛ぶボールを経験した打者の多くが引退に追い込まれている。
その中で、今も超一流として活躍する内川、青木は卓越した打撃技術を身につけていたからこそ、ボールが変わっても対応することができた。
結果、今でも高い打撃成績を残していると言える。
まとめ
全ての事象はその時点や短い期間だけでは判断出来ないことがある。
確かに統一球導入時は異常なほど本塁打が減ってしまい、長距離打者育成の弊害になった側面もある。
しかし、長期的に見ると飛ばないボールを経験したことが打者の技術向上に繋がり、国際舞台での打撃好調に繋がった。
統一球導入からまだ6年。
この先野球の歴史が続いていく中で20年、30年後に統一球導入の是が非(反発係数の隠蔽などの暗部も含めて)が再考されていくことだろう。
もしかしたらその時は『あの統一球があったから打者の技術向上に繋がった』と評価されているかもしれない。
それでは、さようなら!