広岡達朗、森祇晶、野村克也、王貞治、落合博満。
数々の名将たちに仕えてきた辻監督。
守備をはじめとした様々な課題を抱えたライオンズにあって西武の黄金時代を知るOBの存在はまさに救世主。
走塁、守備、選手起用など様々な面でチーム改革に取り組んでいる。
そこで今日は黄金時代を知る辻発彦新監督がもたらした3つのことについて語っていく。
- 辻発彦監督が就任後に掲げた野球
- 機動力野球の復活 走塁改革
- 2016年リーグワーストの101失策を記録 守備改革
- 長いシーズンを見据えた起用方針 主力の休養
- 名将たちに仕えてきた辻監督の理想とする監督像とは
- まとめ
辻発彦監督が就任後に掲げた野球
引用:パワプロ2016 OB選手―内野手― - KiriHaqu
就任当初に辻監督が掲げた野球は「投手を中心とした守りの野球」。
――目指すチーム像は。
「常勝チームがここ数年低迷し、何でこういう状態にあるのかと自分なりに考えたこともある。野球は投手を中心とした守りから入っていかないと、143試合戦って優勝することはできない」
引用:【新監督就任一問一答】西武・辻監督、古巣に「何か恩返しできればという気持ち」 - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)
辻監督は西武黄金時代の中心メンバー。
打順は主に1、2、9番、守備は二塁手を務めた。
ゴールデングラブ賞8回の堅実な守備(歴代二塁手最多記録)。
首位打者を獲得した確実性のある打撃。
87年の巨人との日本シリーズで見せた伝説の走塁。
ここ3年間Bクラスに低迷するライオンズに最も欠けていたタイプの選手。
その現役時代に培った技術と経験は今のライオンズに最も必要なものである。
よく言えば豪快。
悪く言えば大味。
もう一度黄金時代のような細かい野球を西武にもたらすことを目標に掲げてスタートした。
名門再建を託された西武ライオンズ・辻監督の「苦悩と改革」(二宮 清純) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
機動力野球の復活 走塁改革
今シーズンのライオンズは走塁への意識が非常に高い。
5月23終了時点で、チーム盗塁数は12球団1位の37盗塁。
個人でも源田壮亮選手がリーグトップの13盗塁。
秋山翔吾選手が7盗塁で4位、外崎修汰選手が6盗塁で5位。
その意識は盗塁だけではない。
盗塁と走塁によってどれだけ得点をもたらしたかの指標にBsRというものがある。
その指標で源田、浅村選手が12球団全員で1、2位。
外崎、秋山選手が4、7位に入っている。
【12球団BsRランキング】
源田(L)4.0
浅村(L)2.2
上本(T)2.1
外崎(L)2.1
山田(S)2.1
今宮(H)2.0
秋山(L)1,8
亀澤(D)1.8
中島(F)1.5
※ 5/20時点
盗塁だけでなく、走塁面でも12球団トップクラスの指標をたたき出している。
特に浅村選手はここまで盗塁1個にも関わらずBsR2位。
いかに走塁面でチームに貢献しているのかが伺える。
パ・リーグNo.1じゃない 浅村栄斗選手が目指すのは12球団1のセカンド
また、ただ走るだけが辻野球ではない。
一般的に盗塁は打者の集中力を欠くと言われている。
特に主力打者の前では打撃に集中してもらうためにランナーに盗塁させないように支持するケースもある。
そういった主力選手への配慮を辻監督は怠らない。
翌日。辻監督は浅村と中村をそれぞれ呼び、確認した。「やっぱり目の前で三盗はやめてほしいか?」。
2人とも「状況しだいです」と答えた。追い込まれてまで、投手の後方で二塁走者がそわそわと動いていては、さすがに打撃に影響する。しかし早いカウントなら問題ない。
「そうか、分かった」。辻監督はひときわ声を張った。このやりとりは、あえて他の選手の前で行った。
日刊スポーツ退社は残念だけど... 西武ライオンズの名物番記者塩畑大輔記者のおすすめ記事5選
主力の浅村、中村選手に確認をした上で、チーム全体にも浸透させる。
その結果、上位を打つ秋山、源田選手が盗塁数でリーグトップクラス。
また、彼らが拡げたチャンスを中軸の浅村、中村選手が返す。
現在、パ・リーグの打点ランキングは浅村1位、中村2位。
リーグトップクラスの得点力の背景にはチームの高い走塁意識と、意思疎通がある。
上記に挙げた脚が速い選手以外の高い走塁意識が見えるのも今年のライオンズの特徴。
開幕戦で見せたチーム全体の高い走塁意識。
この回、先頭の中村剛也が四球で出塁、続く5番の栗山巧が左翼フェンスへの二塁打で2、3塁の好機を作ると、1死から7番・木村文紀は遊撃ゴロ。日本ハムの遊撃手・中島卓也が本塁に転送するも、三走の中村がタッチをかいくぐって生還した。
続く1死一、三塁で炭谷銀仁朗を迎えた場面では、ツーナッシングで追い込まれていたところを、1走の木村がスタートを切る。炭谷は「キムが走ったら、軽打をしようと頭で考えていた」と図ったかのように一塁側に転がし、三走・栗山が生還した。
引用:菊池の快投支えた“守って走る“辻イズム。開幕戦勝利で見えた新生・西武のカラー (ベースボールチャンネル) - Yahoo!ニュース
ライオンズ開幕カード3連戦は昨季の日本一日本ハムファイターズに勝ち越し 手堅い守りに隙のない走塁 少しだけ見えた辻野球の片鱗
4/19の楽天戦でメヒア選手が見せた執念の1塁への全力疾走など、決して足が速くない選手でも高い走塁意識を持っている。
チーム全体で次の塁を狙う姿勢こそが、今のライオンズの強みの一つなのだ。
2016年リーグワーストの101失策を記録 守備改革
記録に残っているだけで101失策。
それ以外にも細かいミスが目立ち、自滅した昨年のライオンズ。
今シーズンは一転して高い守備力を見せている。
ルーキーの源田選手がショートに入ったことばかりクローズアップされるが、チーム全員の守備への意識が高まっている。
守備でどれだけの失点を防いだかを表すUZRで西武は12球団ダントツトップ。
【球団UZR 5.20時点】
西武 28.7
SB 10.6
中日 10.5
読売 8.3
楽天 5.9
DeNA 0.6
オリックス 0.5
日本ハム -0.6
広島 -6.8
ヤクルト -8.4
阪神 -24.0
ロッテ -25.2
またこの数値が素晴らしいのは一人の選手が突出した数字を残したわけではないことだ。
下記の通りライオンズの選手でポジション別1位のポジションは1つ。
【ポジション別UZR1位】
一塁 内川(H)6.2
二塁 西野(Bs)3.4
三塁 谷内(S)3.8
遊撃 坂本(G)8.3
左翼 田代(L)3.4
中堅 西川(F)4.6
右翼 平田(D)4.2
このことからチーム全体が高い守備力を持った結果、12球団1位のUZRを記録したことが伺える。
チームの守備再建に向けて、辻監督はヤクルト時代に共にプレーした同郷の佐賀出身馬場コーチを招へいした。
ヤクルトでも一緒にプレーしていますし、野球観も似たようなものがあります。気持ちが合う部分も非常に多い。守備は馬場コーチに任せておけば問題ないと考えています。
現役時代にゴールデングラブ賞に輝いた実績を持つ2人のタッグが、着実にライオンズの課題解消に繋がっている。
選手の起用方針もあくまで守備優先。
三塁中村剛也選手にはキャンプ序盤で直々にノックをして守備力強化を求めたり、レフトとライトに守りに定評がある木村、田代を起用したり。
守備に不安のある栗山選手を本来のレフトではなく、指名打者で起用したりなど。
投手力にやや難があるチームだけに守りでカバーしていく。
ゴロボーラーのウルフ投手がリーグトップの5勝、野上投手が次いで4勝していることと固い守りが関連していることは一目瞭然。
これから夏場に向けて投手陣がバテて来た時に、特に野手の守りが重要になる。
シーズン通して固い守りが維持できるかに注目したい。
怪我人の森、金子、不調の山川。
やや守備に難がある彼らが戻って来た時に辻監督がどういう采配をするのか。
今シーズンのライオンズの分岐点になりそうだ。
【プロ野球第十週】西武ライオンズは3番秋山、4番浅村、5番中村の新クリーンナップで打線爆発
長いシーズンを見据えた起用方針 主力の休養
ライオンズの弱点の一つが選手層の薄さ。
優勝候補ソフトバンクと比べて、主力と控えに差がある。
こうなると監督はレギュラーに頼りがちで、無理してでも試合に出て欲しくなるものだ。
しかし、辻監督は積極的に主力に休養を与える。
- 二塁手の浅村選手を負担の大きい二塁手から一塁手起用
- 中村、メヒア選手を指名打者起用。
- 無理すれば試合に出られる状態の栗山、中村選手を無理させず欠場。
- 肩に違和感がある多和田選手を無理させず即登録抹消。
- 故障明けから即二軍で結果を残した金子選手の1軍昇格に慎重姿勢
目先の勝利ではなく常に先を見据えた戦略をとっている。
2016年のライオンズは浅村選手絶不調、中村選手を故障を抱えながら出場させるなど、選手管理が不徹底だったように見えた。
また牧田選手の起用方針や登板間隔にも場当たり的な采配が目立った。
ところが辻監督は選手の起用方針に明確な意図がある。
シーズン開幕前、私はライオンズ優勝のカギの一つに主力を上手く休養させて、年間通して活躍させられるかを挙げた。
【2017年6月更新】2017年の埼玉西武ライオンズのベストオーダーを考察
主力に休みがあるということは控え選手に出場機会があることも意味する。
使ってもらえる可能性があると感じれば1軍の控え選手、2軍選手のモチベーションアップに繋がる。
「選手ってどうしても、試合の勝ち負けに慣れてしまう部分があるんです。第二捕手を使っていくメリットは、そうしたなかで二人の捕手が高め合っていけることですね」
引用:交流戦の好調は「第二捕手」にあり! 現役コーチが明かす“重要性”〈dot.〉 (AERA dot.) - Yahoo!ニュース
結果的にそれが年間通して高いチーム力の維持に繋がる。
今シーズンのライオンズに感じるチームとしての一体感の正体は、首脳陣と選手の信頼感だ。
長いシーズンを乗り切るためにも、首脳陣と選手が一致団結して戦って欲しい。
名将たちに仕えてきた辻監督の理想とする監督像とは
現役から指導者時代を含めて、辻監督は球史に名を残す名将たちと野球をしてきた。
広岡達朗、森祇晶、野村克也、王貞治、落合博満。
いずれも知将と言われるような名監督ばかりだ。
辻監督は著者の中で、これらの監督の中で理想の監督像に王監督の名前を挙げている。
「絶好のチャンスでヒットが出れば、身を乗り出して声をあげ、絶体絶命のピンチで投手が相手打者をピシャリと抑えれば、ついガッツポーズが出てしまうだろう。もちろん監督となれば、感情を押し殺して冷静に対処する必要があることは分かっているが、私は選手と一緒になって一喜一憂し、選手と一緒になって戦うタイプになるだろうと思っている」
引用:プロ野球 勝ち続ける意識改革
この本は5年前に出版された本だが、西武の監督就任が発表された2016年のインタビューでも変わらぬ想いを口にしている。
広岡監督や森監督、落合監督は相手に悟られないように表情を表に出さないタイプです。
それとは逆に、王監督は非常に熱い人。試合にグッと入り込みますし、選手とともに一喜一憂しながら一緒になって戦うタイプなんです。
私も結構、声が出てしまうと思うんですよ。
現役時代はセカンドを守っていて、一つの打球に対して必ず反応していましたから。
だから、実際に監督としてチームを率いると王監督のようになってしまうのかな、と(笑)。
実際辻監督は先日栗山選手がサヨナラ本塁打を放った際も感情を全面に出している。
3試合ぶりに先発メンバーでの起用を決めた辻監督は「『いけー!』とベンチで叫んだよ。よく打ってくれた」と、肩を抱いてたたえた。
引用:西武・栗山がプロ16年目初サヨナラ弾!辻監督叫んだ「いけー!」 (2/2ページ) - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)
辻監督は守備、走塁、戦術などの緻密さだけを西武にもたらしたわけではない。
熱い闘志でチームのモチベーションを高める優れたモチベーターでもある。
結果が出ない選手に付きっきりで指導したり、若い選手を我慢して起用したり。
逆に主力選手は信頼して起用したり。
そういった采配は必ず選手たちの闘志に火をつけるだろう。
監督を男にしたい、胴上げしたい。
そんな風に選手に思わせる優れた監督だ。
まとめ
まだ、開幕して2ヶ月しか経っていないが、辻監督には名監督と言われる素質が十分に備わっている。
好調首位楽天、強敵ソフトバンク。
続出する怪我人と先発投手のコマ不足。
様々な局面を乗り越えて、9年ぶりのリーグ優勝を勝ち取って欲しい。
誰よりも西武愛に溢れる新監督のこれからの名采配に期待したい。
それでは、さようなら!