久々に、「早く結末を知りたい、だけど終わって欲しくない!」。
と思える一冊に出会いました。
どうも、はろーぐっばい(@jubenonz)です。
本日紹介する『ナオミとカナコ』。
主人公は、大学時代の同級生であるナオミ(小田直美)とカナコ(服部加奈子)。
大学卒業後も親交の深い二人ですが、ナオミは自身のキャリアに、カナコは夫のDVに悩まされています。
そんな二人が共謀してカナコの夫を手にかけるストーリー。
2016年にフジテレビでテレビドラマ化された時は、広末涼子&内田有紀のダブルヒロインを務めて話題にもなりました。
日常への鬱屈感、女性同士の友情と残虐さ、不甲斐ない男ども、中国人のしたたかさ...。
経験したことがないけど、どこか身に覚えのあるようなキャラクターたちの行動が、読み手をドンドン引き込んでいく作品。
完全犯罪ものや女性の友情好き、また奥田英朗ファンにオススメしたい一冊です。
「ナオミとカナコ」とは
内容紹介
望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美は、あるとき、親友の加奈子が夫・達郎から酷い暴力を受けていることを知った。その顔にドス黒い痣を見た直美は義憤に駆られ、達郎を排除する完全犯罪を夢想し始める。「いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那」。やがて計画は現実味を帯び、入念な準備とリハーサルの後、ついに決行の夜を迎えるが……。引用:ナオミとカナコ
「ナオミとカナコ」の読書感想
1. やっぱり奥田英朗作品は良い!
久々に読んだ奥田英朗作品。
「20代読書好きのおすすめ小説ランキング100【恋愛から時代、ホラーまで】」でも紹介しましたが、現代の男性作家の中でもトップクラスに好きな小説家。
その奥田英朗らしい、人間の脆くも往生際の悪い部分が精緻に描かれており、「これこれこれっ!」とワクワクゾクゾクしながら読み進めました。
本記事の冒頭にも書きましたが、「早く結末を知りたいけど終わってしまう寂しさもある。でも、読了後の何とも言えない快感を早く味わいたい!!」と気持ちに揺れ惑わされっぱなし。
奥田英朗の作品に出てくる登場人物は、基本的にはどこにでもいそうな人ばかり。
だけど、心の中には大きな闇や葛藤、残虐さや人間の弱さが内包されており、恐ろしくもあり、どこかに親近感もある。
主人公のナオミとカナコ以外の人物たちにも、そんな人間の弱さとしたたかさ、傲慢さがあり、ここではないどこかで現実にありえそうな世界観に惹き込まれました。
1人1人のキャラクターも立っていて、無駄がなく、「あいつ必要だった?」と思う登場人物はいませんでした。
それでいて、登場人物もそれほど多くなく、中心人物は4、5名なので、名前を覚えるのが苦手な方でも無理なく読み進められます。
2. 不完全な完全犯罪 悪巧みとは得てしてそういうもの
話の中心になるのは、「カナコの夫暗○計画」。
※表現の規制がありますので、○の部分はご想像ください。
夫からのDVに耐えかねたカナコと、親友のナオミが共謀して計画する「完全犯罪」。
前半の計画部分では、カナコとナオミが「それいいね!」とワクワクしながら計画を立てていくのですが、読んでいて私にはどうしてもぬぐい去れない疑問が...
結構穴だらけじゃない?
具体的な表現はネタバレになるので控えますが、私としては腑に落ちない部分がありました。
もし仮に自分が人を手にかけるとして、「こんな計画を実行するのか?」。
案の定小さな綻びが生じていくわけですが、恐らくそこが『ナオミとカナコ』の一番のハイライト。
秘密がバレるかもしれない緊張感と恐怖に恐れおののきながらも、瀬戸際で食い止める。
その間の二人のあざとさや、心理描写こそが、読んでいて一番面白かった部分。
逆に言うと、この計画部分に抜けがあることが気になってしまう興ざめしてしまう人には、あまりおすすめできません。
超本格ミステリー小説で使われる叙述トリックなどを楽しみたい方は、満足出来ないでしょう。
私としては、ナオミとカナコの「不完全な完全犯罪」を見るのが面白かったです。
なぜなら、人間誰しもが一度は「不完全な計画」を立てて、失敗することがあるから。
小学生のイタズラ、大学生のサークル活動、企業の商品プロモーション...
どれも内輪や少人数だけの話し合い段階では完璧なのですが、蓋をあければボロが出っぱなし。
なんてことはよくあることです。
沈没船の穴から浸水するのを防ぐが如く、あの手この手で後手後手をふむわけですが、ついには手が足りなくなり...
そのあわてふためく様子が何ともリアルで、さすが奥田英朗といった感じ。
不完全な完全犯罪を完全に描ききっています。
例えは少し古いですが、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」が好きな人には、おすすめです。
3.女同士の友情、それは本物か偽物か?
多少のネタバレになりますが(重要な部分ではない)、ナオミはカナコが夫と結婚する前から、人間性を怪しいと睨んでいました。
「恐らく結婚したら苦労するかもな」と思いつつ、「親友のカナコが愛し、信じた人ならば」とナオミは何も言わなかったのです。
そのことを『ナオミとカナコ』を読んでいる途中に、女友達に説明したところ、「それ絶対わざとだよ」と言われました。
私の女友達曰く、「女という生き物は他の女の幸せなど望んでおらず、自分が未婚なのに親友が結婚して幸せになることなど望んでいない」と。
全ての女性がそうであるかはわかりませんが、男性の私にない女性ならではの感覚と感想。
「えっ、じゃあもしかしたら友情に厚くみえるナオミがカナコを裏切る大どんでん返しがあるのか?」と、ドキドキしながら読み進めていました。
私の場合はたまたまそんな視点が割行ってきましたが、もしこれから読まれる方は、女の友情が本物なのか、偽物なのかについても注目しながら読んでみてください。
最後に少し蛇足なのですが、奥田英朗さんは男性の小説家にも関わらず、女性作家のような「逞しい女性と、だらしない男性」を描くのが巧みでした。
向田邦子文学にありそうな、男女の描き方を読んで、ますます奥田英朗の技量と感性に心酔した次第です。
「ナオミとカナコ」のAmazonレビュー一覧
奥田英朗に駄作なし。その中でもこれは傑作。『邪魔』系の読み出したら止められない作品が多いけれど、ここまで読んでいて動悸が高まり、文字を追うのがもどかしくなる作品はなかったかも(サウスバウンドを読んだ時はそうだったかな)。東京物語やガールのような余韻が楽しい傑作シリーズとは味が違って、途中から読み手は動悸が激しくなり、物語の先だけに気持ちが集中してとてもじゃないけど他のことはできなくなる。読書の楽しみというレベルじゃない。読んでいて苦しいくらい興奮しました。
読後感も素晴らしい! 登場人物が非常に良い。特に中国人! 奥田英朗は女性の味方だと思っていたけれど、アジア人味方でもあるようだ。読んでいて非常に心地良く、感激の嵐。加奈子がどんどん自分を取りもどし、成長していく様子は涙が出そうなくらい感動的。傑作中の傑作です。
DVの夫に苦しめられる友人を助けようと、女二人でその夫を殺害、完全犯罪を企てる話。後半になって犯罪が少しずつ露呈していってからは、ずっと緊張し放しで、本当に最後の一行までどうなるのか目が離せませんでした。知らず知らずに犯罪者である女性二人を応援してしまいました。犯罪が稚拙だという意見もありますが、そもそもこれはミステリー作品ではなく、ストーリーテリングと緊迫感を楽しむ作品なので、これで良いと思います。
作中に出てくる中国人の描き方がとてもリアルであり、物語を一層面白くさせています。
こんなやつ、いなくなってほしい。
目の前から消えないならば殺めるしかない。
人間感情が究極な状態になったときに起こす行動。
計画的に事を進めていく。完璧だと思って。
だがそこには見落としがある。
追うものと追われるもの。
助けてくれるのは、裏社会。
ハラハラしながら展開されるサスペンス。
奥田英朗のもつ登場人物の独特のタッチ。
こんなに面白い小説を読んだのは久しぶりだ。
映画「テルマ アンド ルイーズ」を彷彿とさせる女の友情物語でもある。
後半に差し掛かる頃から俄然スリリングな展開となり、読む手を止める事が出来なかった。
最後には読者の誰もがナオミとカナコを応援せずにはいられなくなるだろう。
最早これはフィクションであってフィクションでない。野暮な細かいツッコミなどこの小説には無用だ。
兎に角とても素晴らしい作品だ。一人でも多くの人に是非読んで欲しい。心からこんな気持ちになってレビューを書いたのは初めてだ。
素人が完全犯罪を犯そうとしたらどうなるか。
エンタメだけあって実際にはありえない偶然も重なりますが、
それが逆に、いい意味でドラマチックでした。
全編3人称で書かれてはいますが、視点主人公の二人の感情が
とてもリアルに伝わってくるため、まさに「手に汗握る」という
表現がぴったりの読書体験。
人を殺すという倫理的には許されないことをしている二人が
主人公なのに、なぜか青春小説のような、妙に清々しい気持ちを
抱いてしまうのだから不思議です。
まとめ
- 奥田英朗作品らしい精緻な人間描写
- 不完全な完全犯罪が逆にリアルで面白い
- 奥田英朗、女性の友情、計画が崩れていく過程が好きな人におすすめ
ドラマ化もされているので、是非ご覧下さい。
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