私たちは、「人口減社会」なのに「住宅過剰社会」という不思議な国に住んでいます
どうも、はろーぐっばい(@jubenonz)です。
本日は、『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』の書評レビューをします。
現在の日本は世帯数よりも住宅数の方が多い、いわゆる『住宅過剰社会』。
※2013年調べで約5245万世帯に対して、住宅数約6063万戸
しかも、人口減少が進む2010年以降も、新築住宅の供給は増加しています。
なぜ住宅数は増え続けるのか、住宅過剰社会がもたらす悲しい末路とは、暗い末路を避けるために必要なことは何なのか。
不動産投資だけでなく、これからの日本に生きる人全てが考えるべき、日本の住宅事情について警鐘をならした本でした。
将来の住処について考えている、不動産投資に興味がある方は、是非読んで欲しいです。
これから早速書評レビューをしていきます。
- 『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』とは
- 『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』の書評レビュー&まとめ
- 『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』のAmazonレビュー
- まとめ
- 不動産投資関連記事
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』とは
内容
私たちは、「人口減少社会」なのに「住宅過剰社会」という不思議な国に住んでいます。右肩上がりに空き家は増え続け、15年後には3戸に1戸が空き家になってしまうにもかかわらず、都市部では相変わらず超高層マンションが林立し、郊外では無秩序に戸建て住宅地の開発が続いています。住宅過剰社会は住みにくい「まち」の原因です。あなたは最近、自分の「まち」が住みにくいと感じることはないでしょうか?
著者:野澤千絵
プロフィール:兵庫県生まれ。平成8年3月大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻修士課程(都市環境デザイン学講座)修了後、ゼネコンにて開発計画業務等に従事。その後、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程都市計画研究室に入学、平成14年3月博士(工学)取得。東京大学先端科学技術研究センター先端まちづくり研究特任助手、東京大学大学院工学部都市工学科非常勤講師を経て、平成19年4月より東洋大学理工学部建築学科准教授。平成27年4月より教授。
引用:野澤 千絵(建築学科)
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』の書評レビュー&まとめ
「20代の私が不動産投資に興味を持った理由2つと魅力を感じなかった4つのポイント」の記事でも述べたのですが、最近は不動産投資に興味を持っています。
仮に結果的には不動産投資を行わなかったとしても、住宅について知っておくことは、今後生きる上では重要なこと。
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』は、ここ最近学んできた点と点を、線にしてくれるような話でした。
最近は不動産投資の闇や、「人口減少の中で日本の不動産の価値は下がる!」のような本が多いです。
ただ、それらはどちらかというと東京オリンピック開催年の2020年前後について書かれたものが数多くあります。
また、”投資”としての住宅事情を見つめたものが多数な印象。
投資に興味がない人にとっては、他人事(ひとごと)でしかないでしょう。
ところが『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』では、「住宅過剰社会」が投資家以外にも影響をもたらす危険性を解説されています。
今後も人々(住宅を購入する人)が、無作為に住宅を選んでいくと、どんなことになっていくのか...。
不動産業界・行政・民間人の、それぞれの人々が一体となって、将来の日本について考えなければ、日本の未来は暗く危険なものであることが、書かれていました。
常に新築住宅を作り続けないといけない住宅・建設業界のビジネスモデル
住宅・建設業界というのは、「常に泳いでいないと死んでしまうマグロと同じ」と言われるように、基本的には、常に建物をつくり続けないと、収益が確保しにくいビジネススタイル
「【書評レビュー】『マイホーム価値革命 2022年、「不動産」の常識が変わる』【投資】」でも触れたのですが、「価格は「実需」より「思惑」で動く」のです。
「住宅が増えるということは、需要があるからでしょ。需要と供給の市場原則じゃん」と考える人もいらっしゃるでしょうが、全ての市場が健全な状態にあるとは言い切れません。
【住宅・建設業界のビジネスモデル事情】
- 土地取得費や建設費といった初期投資が短期間で回収できるために事業性を確保しやすい
- 住宅を引き渡した後の維持管理の責任も購入者に移るために事情リスクが低い
リスクも少なく、すぐにリターンを得られる。
ビジネスにおいて、理想的なモデルが住宅・建設業界には出来上がっているのです。
従って、分譲タイプの戸建てやマンションを大量に建て続けていくことが、彼らにとっては都合がいいのです。
そのため、手を変え品を変えて、新築住宅の良さを宣伝・アピールするしています。
そしてこのビジネスモデルの厄介なところは、購入する側にもメリット(短期的)があるところ。
住宅ローンで購入すれば、住宅ローン減税という優遇措置が得られることから、住宅を購入する人も後を絶たないのです。
こうした売る側と買う側と建てる側の短期的なメリットが重なって、日本では新築住宅数が増加傾向にあるのです。
空き家が増えてゴーストタウン化する日本
野村総合研究所によると、このまま空き家になった住宅の除却や住宅用途以外への有効活用が進まなければ、2013年に約820万戸の空き家が、10年後(2023年)には約1400万戸、空き家率は21.0%に、20年後(2033年)には約2150万戸、空き家率は30.2%になると予測されており、3戸に1戸が空き家という将来が待っています。
2035年前後から、団塊世代の死亡数が一気に増えると予想されます。
近年は相続や、実家の売却・賃貸が進まず、荒廃した空き家がひろがった街が増えることも予測されるのです。
日本の世帯数は、2019年の5307万世帯をピークに減少し、2035年には4956万世帯まで減少すると予測されています。
世帯数は減る、住宅数は増える、にもかかわらず国は新築住宅への金融・節税などの優遇を行う。
需要は減って、供給すべき数は減っている事案に、国が財源をかけ続けることの無駄さを想像するのは、容易でしょう。
最大の問題はインフラ整備に多額の税金が投入されること
問題なのは、住宅社会が、居住地としての基盤(道路や小学校・公園など)が十分に整っていないような区域でも、いまだに野放図につくり続けられ、居住地の拡大が止まらないことです。
「住宅・建設業界が儲けようが、家を買ったやつが損しようが知ったこっちゃない他人事」と、安易に考えられない状況があります。
都心部だけではなく、郊外や地方にも住宅が開発されていけば、当然そこにはインフラ整備費と維持費が発生。
【居住地開発・拡大にかかる費用】
- 小学校・道路、公園
- 公共施設や道路などの維持管理費
- 防災対策や災害時の対応・ゴミ収集費
これらに税金が投入されることが問題なのではありません。
無計画に、税金がかかることが問題なのです。
前述した通り、日本では今後ゴーストタウンと言われるような、空き家物件が多い街の誕生が予想されます。
さらに人口減少も間違いなく発生し、少子化に伴い生産年齢人口も減少。
ロボットやAIの普及も期待されますが、それらも未知数。
日本の財源確保は、どんどん厳しくなっていくことが予想されます。
潤沢に資金がない以上、効率的な税金活用は、必須。
そんな中にあって、民間企業、行政、民間人がそれぞれの思いだけで、住宅を建設・生活していては、一億総倒れ社会にもなりかねないのです。
都市機能を中心市街地に集め、税金を有効活用して、人々もより良い暮らしをする「コンパクトシティ」実現に向けて、全員が足並みを揃えなければいけません。
住宅過剰社会からの脱却
長期的な観点から、人口はある程度減少することを前提に、次世代に負担を残さない施策を行うことが最も需要です。
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』では、住宅過剰社会からの脱却の考察もされています。
習志野市の公共施設再生計画を具体例に出し、時代の変化に応じた公共サービスを継続的に提供するためには何をすれば良いのか。
書かれてある施策を読んで感じたのは、「脱住宅過剰社会」成功の鍵は「次世代に負担を先送りしない」をどれだけ人々が共有できるかでしょう。
「正直次世代のことより今の自分が大事」という人が、本音のところでは多いでしょう。
自分が生きている時代さえよければそれでいいという人が、実際は大多数な気がします。
「周りがどんなに空き家になろうと、私にとってはこの家と土地に思い出がいっぱい詰まってる!」、「先祖代々受け継いできた伝統のある家からでたくない!」といった、個人の想いをどこまで組めるのか。
かなり難しい問題なので、ドラスティックな改革を実行できる人はなかなかいないでしょうが...。
実際私の実家はど田舎にあるのですが、両親は都心部への引っ越しは望んでおらず、実家で暮らし続けることを希望しています。
父親の老い、介護の不安、死の怖さ【2018年4月の介護日記】
ポイントになるのは、現世代にも旨味のある政策をできるかでしょうね。
月並みな案ですが、コンパクトシティへの引っ越しや市民税を軽減、老人ホームの入居費や介護費用の負担、子育て世代への税金減など。
今を生きる世代にもメリットがある施策を打ち出し、そこに人々が集まることで、自然にコンパクトシティが出来上がる流れです。
1人でも多くの人が、自分の住む街をしっかりと考えて選ぶ意識ができれば、状況は改善されていくでしょう。
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』では、第3章「住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策」と第4章「住宅過剰から脱却するための7つの方策」で、具体的方法も解説されていますので、是非ご覧になってみてください。
『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』のAmazonレビュー
冒頭の「住宅ストック数」の推移から、
なかなかパンチが効いたデータで引き込まれるように読みました。
「住宅過剰社会」とは絶妙な名づけで、
あとがきでも明かされてましたが言い得て妙とはことのことです。
空き家率などデータ的な部分は類書にも多く引用されているもので、
新しい部分はそれほどなかったようにも思えますが、
後半の都市計画や住宅政策など国や自治体への苦言や提言は、
著者ならではと感じました。一読に値する本です。
自分にとって、住居の持つ意味と価値をよく考えてから行動しないと、資産として無理して買うと、人生が崩壊する危険もある。
「なぜ、将来の人口減少が明白なのに、東京近辺はマンションや戸建てをこんなにできるのか?」「地方都市はすでに空洞化などの問題が報道されてるけど、近い将来具体的にどうなるか?」といった私のモヤモヤとした疑問や不安に対し、具体的な事例や見解によって何が問題かを明らかにしてくれました。
住宅・建設業界は、基本的には常に建物をつくり続けないと収益を確保しにくいビジネスモデルということ。人口増を目指す自治体は、住宅は工場みたいに害がないという理由で、誘導すべき住宅の形態やタイプを十分精査せず、賃貸マンションが増えたりすること。など、考えればそうだな、ということが事例とともに示され、すっきりします。
私自身は仕事でインフラ整備に関わっていますが、これらの解決策として、上記のビジネスモデルを転換させる施策はないか?都市計画をどの程度誘導し、どの程度規制とするのが最適か?など、新書である本書を契機に、あらためて勉強しようと思いました。
また、直接業務と関係なくても、住むところをどうするか、親の住まいはどうなるか、等は我々40代にとってきわめて身近な課題であり、これらについて考えている方にもお勧めです。本書タイトルとなっている「住宅過剰社会」の他、「焼畑的都市計画」「まちのスポンジ化」といったフレーズも、現実を表す言葉だと思います。
大分県の片田舎で生まれ育ちましたが、なぜ人口減少時代になおこんな田舎にわざわざ農地を潰して新築の家が建つのか、子供の頃からずっと疑問でした。著者は、現代の地方の住宅過剰の原因は、自治体の人口の取り合い合戦とそれを助長する弱い都市計画にあるとしましたが、しっかりとしたデータと調査に裏付けられたその議論に納得しました。
地方分権や地方ガバナンスが叫ばれて久しいですが、ある意味その副作用として、自治体が生き残りをかけて新自由主義的な都市計画を展開している点は非常に面白いと思いました。この著書全体を通して、いかに都市計画というものが多面性を持った複雑な行為であるかを改めて思い知らされました。
この本は、住宅過剰社会には、こんなに問題が発生しつつあって、もう時代は変わっているのだから、これまでの固定観念を捨て、とにかく真剣に考えるべき時期になっているのだと迫る本。
多くの具体的な街で既に先取りしておきている問題の深刻さがわかるだけでなく、今後、このまま住宅過剰社会が進行すれば、どんな街でも、住宅という資産の面でも、避けては通れない深刻な問題が発生するということとに改めて気づかされた。
特に、今後、住宅を買おうという人、既に買った人、将来、空き家になることが確実な実家を持っている人だけでなく、都市計画を進める公務員や、これから公務員を目指すという学生たち、更には新たなビジネスチャンスを考える住宅業界にも必読書になるのではないかと思う。
引用:『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』Amazonカスタマーレビュー
まとめ
- 世帯数は減るのに、住宅数は増えて、新築住宅優遇政策は変わらない日本
- 住宅過剰社会は投資家や住宅・不動産業界以外にも影響が出る
- 次世代に負担を残さない理念を国と企業と国民が一体となって取り組めるか
- 現世代にもうまみのある施策を実行できるのかも大事
- 短期的な利益・メリットだけを考えるのをやめる
まあ、こうした理想論は中々実現が難しいものです。
総論賛成、各論反対で、行動に移せないことが大半。
コンパクトシティを掲げる行政、自治体を応援or利用する、住宅購入する際に土地の可能性と将来性も考慮する...
大きな国や企業がやらないなら、小さな個人一人一人が動いていかないと、日本は沈没するかもしれません。
安易に「やばいよやばいよ」と言いたくありませんが、やばい気がします。
それでは、さようなら!
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