野球の楽しみ方の一つにデータ(数字)があります。
他のスポーツと比べて、野球には非常に多種多様な数字が存在します。
また最近ではセイバーメトリクスなる統計学の登場により、より数字で野球を楽しむ人が増えています。
しかし、あまりにデータの種類が増え過ぎて、野球を見始めた人にはとってはかなりわかりづらいものになっています。
日本とメジャーリーグの大きな違いの一つと言っても、過言ではありません。
私は時々このブログでセイバーメトリクスの指標を使ったりするのですが、数字の意味がわからない人が多いかと思います。
私自身もたまによくわからない指標を見かけたりします。
そこで今日は野球初心者の方のために、野球のセイバーメトリクスとは何か。
そして、今後注目して見るべき数字とその見方をご紹介します。
これを読めばあなたの野球観が変わること間違いなしです。
セイバーメトリクスとは
セイバーメトリクスとは、野球ライターで野球史研究家・野球統計の専門家でもあるビル・ジェームズ(George William “Bill” James, 1949年 - )によって1970年代に提唱されたもので、アメリカ野球学会の略称SABR (Society for American Baseball Research) と測定基準 (metrics) を組み合わせた造語である
ようは統計学を用いて野球を分析しようということです。
ビッグデータを活用することで、より正確な指標になることが予想されています。
セイバーメトリクスの特徴でもあり、批判される点の一つが、盗塁や犠牲バント、打率などの旧指標を否定したことです。
セイバーメトリクスの根底には下記の重要な2つの観点があります。
- 野球というスポーツにおいてアウトは最大の罪
- より個の力を評価する
野球というスポーツにおいてアウトは最大の罪
野球と他のスポーツの最大の違いは時間と点数の制限がないことです。
サッカーやバスケットは試合時間の制限、バレーやテニスは点数の制限があります。
対して、野球はそれらの制限がありません。
言い換えると野球はアウトにならなければ、永遠に何点でも得点してよいスポーツなのです。
そのため、セイバーメトリクスでは出塁率を非常に重要視します。
旧指標では打率が非常に重要視されますが、セイバーメトリクスではあまり評価されません。
例えばイチロー選手がメジャーデビューして、新人王や首位打者、MVPを取った2001年。
その2001年のイチロー選手は打率.350、出塁率.381。
それと同じ年にセイバーメトリクスの申し子と言われるアダム・ダンという選手もメジャーデビューしています。
その年のアダム・ダン選手の打率は.262、出塁率.371。
打率こそかなり違いがあるのですが、両者は出塁率においては近い成績を残しているのです。
アダム・ダン選手は三振が多い選手として知られます。
2004年から3年連続でナ・リーグ最多三振を喫し、2004年の195三振は当時のMLBシーズン最多記録。
2012年には歴代2位の222三振を記録し、2000三振に史上最速の12年で到達しています。
その一方でで史上50人目の通算400本塁打を達成しています。
また、2009年には出塁率.398、通算打率.237ながらキャリア通算出塁率.364を記録。
イチロー選手のメジャー通算打率が.313、出塁率.356であることを考えると、単純比較でイチロー選手よりもアダム・ダン選手の方が塁に出る力が優れているのです。
セイバーメトリクスの観点で言えば、低打率ながら出塁率の高いアダム・ダン選手の方が評価されるのです。(打撃だけ見れば)
また、アウトにならないことを重要視するため、自ら進んでアウトを献上する犠牲バント、せっかくの出塁を無駄にする可能性がある盗塁もセイバーメトリクスではあまり評価されません。
より個の力を評価する
セイバーメトリクスにおいて重要なのは個の評価です。
例を上げると、旧指標では打点が非常に評価されます。
しかし、セイバーメトリクスにおいてはその価値は高くありません。
その理由が打点には打点を記録した選手以外の要素があるからです。
例えば、ランナー2塁でヒットを打った場合、2塁走者の足が速ければ、ホームに帰ってこられますが、遅ければ帰ってこられません。
また相手の守備力が高ければ、ホームに帰ってこられませんが、相手の守備力が低ければホームに帰ってこられます。
そもそも自分の打席でランナーがいるかどうかすら運の要素が強いです。
- 走者の走力
- 相手の守備力
- 走者の有無
上記のような、打者以外の非常に多くの運要素が合わさって打点がつきます。
つまり、打点がつくこと自体偶然性が高く、個人を測る指標としては欠陥がある指標なのです。
そのため、セイバーメトリクスにおいては打者個人を測る指標として機能していないことから、あまり打点は評価されません。
投手の指標でも同様のことが言え、防御率は投手個人の指標ではないため、評価されません。
例えば、下記の2チームがあった場合どちらがヒットが生まれやすく、点が入りやすいでしょうか。
- チームA:捕手古田敦也選手、内野手全員菊池涼介選手レベル、外野手全員イチロー選手レベル
- チームB:全員守備が苦手な選手のチーム
当然チームBの方が失点しやすいでしょう。
仮に同じ打球を打たれても、味方の守備力によってヒットになるケースとそうでないケースが異なります。
そのため、同じ守備でプレイしているわけではない、他球団の選手同士を防御率で比較するのはあまり意味がありません。
その観点から、セイバーメトリクスで投手を評価する際、下記の3点が重要視されます。
- 奪三振
- 与四死球
- 被本塁打
奪三振は投手が自力で奪えるものです。
またバットに当たるインプレイ(ゴロやフライ)は前述した通り、味方の守備に左右するため、例え討ち取ったあたりでも、ヒットになる可能性があります。
つまり、ヒットやエラーになるリスクがあるのです。
しかし、奪三振ではそのリスクが限りなく低いです(振り逃げの場合は出塁される)。
リスクが少なく、確実にアウトが取れる奪三振は非常に評価の高い投手の指標なのです。
その逆に与四死球と被本塁打は投手の責任で出塁、失点を許す行為です。
そのため、与四死球と被本塁打は投手の評価を下げるのです。
ようは投手だけがコントロール出来る要素で、投手個人を評価しようというのがセイバーメトリクスの考え方なのです。
【セイバーメトリクスの投手評価基準】
- 奪三振が多い投手は評価が高い。
- 与四死球、被本塁打が多い投手は評価が低い。
この三点に絞って守備から独立した投手の実力を判断するための疑似防御率として設計された指標にFIPというものがあります。
賛否両論ある指標なのですが、根底にあるのは、
投手の力量を「投手自身でコントロールできる部分」と「投手自身ではコントロールできない部分」に分けて、「投手自身でコントロールできる部門」だけで投手を評価することです。
この考えから、援護点に左右される投手の勝ち負けはあまり評価されません。
例えば、下記の二つの投手のケース。
- 毎回5失点するけど、打線が10点取ってくれるチームに所属する投手A
- 毎回2失点しかしないけど、打線が1点しか取れないチームに所属する投手B
仮に投手Aが20勝0敗、投手Bが0勝20敗だった場合どちらが優秀な投手と言えるでしょうか。
ここで上げたの極端な例ですが、このようにセイバーメトリクスでは投手個人の力量と相関成績が低い勝敗はあまり重要視されません。
セイバーメトリクスの基本まとめ
【攻撃】
- アウトにならないこと、つまり出塁(=出塁率)が重要。
- 長打力が高ければ相手バッテリーが警戒し四球が増えるので、長打率を次に重要視。
- 打率は四死球を含まず長打と単打を同様の価値で扱うので重要視しない。
- 犠打や進塁打など、"意図的にアウトを増やす攻撃"は重要視しない。
- 盗塁は成功しても得点するとは限らず、失敗すれば出塁を無駄にするため、"ハイリスク、ローリターン"なので、重要視しない。
【守備】
- 確実にアウトを奪える奪三振を重要視する。
- 自ら出塁を許す与四球、味方野手が防ぎようのない被本塁打をが多い投手を低く評価する。
- 防御率や被安打率は味方の守備能力に左右されるため、あまり重要視しない。
- 投手の勝敗は、味方の援護点、守備力で変わるため重要視しない。
野球初心者が注目すべき指標
ここからは野球初心者が注目すべき指標を紹介していきます。
指標の説明だけでなく、目安となる基準値、その指標が優秀な選手も紹介しますので、選手を評価する時のポイントにして頂けると幸いです。
野手
・出塁率
意味:犠打・インターフェアを除く打席のうち、アウトにならず出塁した割合を表す指標。
計算式:出塁率=(安打+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)
目安:平均は.330前後。レギュラークラス.350.。400を越えれば超優秀。
代表的な選手:柳田悠岐(ソフトバンク)、糸井嘉男(阪神)
・IsoD
意味:四死球での出塁の多さを表す指標。
計算式:IsoD = 出塁率-打率BB/K
目安:平均は.060程度。1割を超えると優秀
代表的な選手:栗山巧(西武ライオンズ)、鳥谷敬(阪神)
・長打率
意味:1打数あたり、平均していくつの塁打を得たかを表す指標。長打を打つ確率ではない。
計算式:長打率=塁打÷打数
目安:平均は.400前後。.500を超えるとリーグトップレベル。.700を超えると球史に残るレベル。
代表的な選手:レアード(日本ハム)、ロペス(横浜DeNA)
・OPS
意味:打者が得点増に有効な打撃をしているかどうかを表す指標。数値が高いほどチームの得点増に貢献している打者。
分母の異なる出塁率と長打率を足しているため、批判されることが多いが、得点との相関関係が非常に強いため重宝される。
計算式:OPS=長打率+出塁率
目安:平均は.730前後。.800を超えるレギュラークラス。.900を超えると優秀。1.0を越えると超一流。
代表的な選手:筒香嘉智(横浜DeNA)、山田哲人(ヤクルト)
・NOI
意味:出塁率の価値を3倍にしたOPS。
計算式:NOI=(出塁率+長打率÷3)×1000
目安:450以上は平均的、550以上は主力級、600以上は一流打者。
代表的な選手:中村晃(ソフトバンク)、丸佳浩(広島)
・RC27
意味:ある打者が一人で打線を組んだ場合の1試合(27アウト)あたりの得点数。
この数値が大きいほど、その選手の総合的な得点能力が優れているとされる。
計算式:RC27 = RC÷(打数-安打+盗塁死+犠打+犠飛+併殺打)×27
目安:平均は4.5。6.5で優秀、7.5で一流、8.5は超一流
代表的な選手:坂本勇人(巨人)、 西川遥輝(日本ハム)
・BABIP
意味:本塁打を除くフェア打球が安打になった割合。
計算式: BABIP = (安打-本塁打)÷(打数-三振-本塁打+犠飛)
目安:平均は.300。平均を上回れば、その年は運が良かったとされ、翌年の成績ダウンが予想される。逆に下回れば、その年は運が悪かったとされ、翌年の成績アップが予想される。
・UZR
意味:守備の貢献を同守備位置の平均と比較して得点化した指標。
目安:平均0。+10以上優秀、+15以上名手。-も同様の考え。
代表的な選手:菊池涼介(広島)、安達了一(オリックス)
投手
・QS
意味:先発投手が最低限の仕事をしたことを測る指標。
先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えること。
6回まで3自責点、7回に1自責点し、合計7回4自責点となった場合はQSとはみなされない。
目安:平均50%、60%以上は優秀、70%以上でトップクラス
代表的な選手:ジョンソン(広島)、石川歩(ロッテ)
・HQS
意味:先発投手が好投したことを測る指標。
QSを上回るハイクオリティスタート(High Quality Start、HQS。)
7イニング以上を投げ、かつ2自責点以内で抑えること。
目安:平均30%前後、40%以上は優秀。
・K/BB
意味:奪三振 (K:strikeout)と与四球 (BB:Base on Balls)の比率で、投手の制球力を示す指標の1つ。
計算式:K/BB=奪三振÷与四球
目安:1.50以下は問題あり、2.0が平均、3.5以上は優秀、4.5以上はリーグトップクラス
代表的な選手:上原浩治(カブス)、菅野智之(巨人)、則本昴大(楽天)
・FIP
意味:Fielding Independent Pitchingの略で、運や守備力の影響を排除した投手の純粋な能力をはかるための指標。擬似防御率と言われる。
計算式:「被本塁打」「与四死球」「奪三振」を元に計算。※計算式が複雑なため省略。
目安:平均は3.8、3.20は優秀、4.40は悪い。
・BABIP
意味:本塁打を除くフェア打球が安打になった割合。
計算式: BABIP = (安打-本塁打)÷(打数-三振-本塁打+犠飛)
目安:平均は.300。平均を上回れば、その年は運が良かったとされ、翌年の成績ダウンが予想される。逆に下回れば、その年は運が悪かったとされ、翌年の成績アップが予想される。
総合
・War
意味:選手の打撃・走塁・守備・投球を総合的に評価し、一元的な数値で表す指標。
野手も投手も同じ土俵で序列化することができる。
そのポジションの代替可能選手に比べてどれだけ勝利数を上積みしたかを評価できる。
代替可能選手とは日本では2軍のレギュラー選手にあたる。
目安:レギュラー野手、先発投手は2.0。6.0以上スーパースター。9.0越えMVP級。
代表的な選手:山田哲人(ヤクルト)、大谷翔平(日本ハムファイターズ)
データを楽しめるサイト
上記で紹介したデータをチェック出来る優良サイトを紹介します。
プロ野球 ヌルデータ置き場
2005年からデータを提供されているヌルデータ置き場さん。
セイバーメトリクスの新指標から、打率などの旧指標まで幅広くカバーされています。
選手個人の成績だけでなく、チームの細かいデータまで集計されています。
毎試合2、3時間後にデータが更新されるため、非常に速報性もあります。
サイト構成も見やすい色使いや、検索しやすい作りになっています。
正直このサイトだけ見ていればデータに関してはかなりの野球通になれます。
データで楽しむプロ野球
こちらのサイトも非常に豊富なデータが取り扱ってあります。
ヌルデータ置き場さんとは違った指標を取り扱っているので、ヌルデータ置き場さんにない情報はこちらで調べることができます。
個人的に重宝しているのは「球種配分&球種別被安打割合」 です。
球種ごとの投球割合や被打率、空振り率がわかるので、その投手の得意球や傾向がわかります。
また年度別のデータもあるため、その選手の進化や劣化部分を比較することができます。
総合値からはわからない選手の細かい得手不得手を知ることができます。
セイバーメトリクスに対する私のスタンス
ここまで、セイバーメトリクスについて紹介してきましたが、私はデータが全てだとは思いません。
データだけでは計り知れない選手、野球の魅力があると考えているからです。
例えば、バッティングやピッチングフォームが好き、華麗なグラブ裁きが魅力的、淡々とピンチを抑えていくリリーフが好きなど、野球を楽しむ要素はデータ以外にもあります。
それらの要素を総合して楽しめるのが野球というスポーツであって、データが全てではありません。
しかし、その一方でセイバーメトリクスによって今まで日の目を浴びなかった選手に光があたるのがデータで野球を楽しむ魅力の一つです。
打率は低いけど選球眼が良い選手、エラーは多いけど守備範囲は広い選手、失点は多いけど奪三振力はある投手。
これらの選手は旧指標を使っていれば、評価が低かった選手。
しかし、セイバーメトリクスを用いることで、それらの選手が評価されるのです。
データを利用すれば、主観ではわからない選手の魅力を知ることが出来ます。
セイバーメトリクス=野球の楽しみ方を増やしてくれる一つの手段。
それが私のセイバーメトリクスに対してのスタンスです。
参考になるセイバーメトリクス関連書籍
セイバーメトリクスとは何か。
なぜ生まれて、どんな意味があるのかを解説したいわばセイバーメトリクスの入門書です。
2008年に発売された本なので、最新の情報はありませんが、今でもセイバーメトリクスについての理解を深められる本として有用です。
よりセイバーメトリクスを統計学の観点から解説した本です。
発売も2016年と最近なので、最新のセイバーメトリクスについて学べます。
セイバーメトリクスを世に知らしめるきっかけとなったオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンについて書かれたノンフィクション小説。
ブラッド・ピット主演で映画化されたことでも話題になりました。
まとめ
データを知れば野球をもっと楽しめる。
でもデータだけでは野球は楽しめない。
あくまで野球を楽しむ一つの手助けとして、セイバーメトリクスを活用してみてはいかがでしょうか。
それでは、さようなら!
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