5月7日にメットライフドームで行われた西武VS楽天戦。
楽天先発岸孝之選手の名前がコールされると一部の西武ファンから岸選手へのブーイングが浴びせられた。
岸選手は昨年まで10年間プレイした埼玉西武ライオンズを離れ、FA制度を利用して自身の地元仙台に本拠地を構える東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍した。
同一リーグの球団へのエース移籍を西武ファンは快く受け止めることが出来なかった。
その結果、ブーイングという最悪の形になってしまった。
そうした一部の西武ファンの行いに批判の声も上がっている。
一部ファン(応援団)の蛮行で西武ファン全体のイメージが損なわれてしまうのは残念だ。人材流出が叫ばれる近年の西武だが、その一因なのではとすら思えてくる。
「中略」
海外のフーリガンや熱いサポーターの真似をしたいのかどうなのかは謎だが、美しい行為でないのは明らかだろう。ここはあくまで日本であり、そもそもそうした行為は似合わない。
根拠もないのに、人材流出の一因とするのはどうかと思うが、「美しい行為でない」という部分は同意できる。
では、なぜ西武ファンがブーイングに及んだのか。
そして、全ての西武ファンが岸選手を嫌ってるわけではない。
このままでは西武ファンと岸孝之選手が誤解されかねないと思い、今回の騒動についてまとめてみた。
- 岸孝之選手とは
- 西武ファンが岸孝之選手へブーイングする理由
- 元カレが新しい恋人と仲良くしているのを見せつけられる感覚
- 岸孝之選手のライオンズへの想い
- 元エースと4番の真っ向勝負
- 今回の一件に対する私の思い
- まとめ
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岸孝之選手とは
西武ライオンズ時代
2006年のドラフト会議希望入団枠で西武へ入団。
一年目から活躍し、田中将大(当時楽天)選手と11勝7敗で並び、新人王を争った。
新人王は田中選手に譲ったが、好成績を残したことが評価され、パ・リーグ特別表彰として「優秀新人賞」を受賞。
2008年の日本シリーズでは読売ジャイアンツを相手に14+2/3イニングを投げ無失点。
日本シリーズMVP(最高殊勲選手賞)を獲得した。
この時の活躍から「カーブ」といえば岸投手の代名詞となった。
その後も西武ライオンズのエースとして活躍。
2013年には総額で3年最高12億円となる大型契約を結んだ。
2014年には史上78人目、89度目のノーヒットノーランを達成。
2016年には史上134人目の通算100勝を達成。
東北楽天ゴールデンイーグルスへの移籍
2016年オフ、FA権を行使して東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍。
大学生までの間、生まれ育った仙台への想いが移籍の決めてとなった。
報道陣から移籍の決め手を問われると、「野球を始めたのが、この仙台ですので、そこからプロに入るまでたくさんの人にお世話になり、ここまでこられた。成長した姿を見せたい。地元に恩返しをしたいなという強い思いがありました」と生まれ故郷への思いも大きかったことを明かした。
2011年に故郷仙台を襲った『東日本大震災』も岸孝之選手に仙台へ帰りたい想いを強くさせた。
改めて6年たちましたけど、向き合って、何かをやっていきたい気持ちはある。だからといって、何をすることが、いいか分からない。野球でしかない。単純に東北のみなさんに純粋に野球を楽しんでほしくて。「地元の岸が投げてくれて、元気をもらえる」と、思ってもらえるだけでいい。
西武ファンが岸孝之選手へブーイングする理由
歴代ライオンズ大物選手FA流出
2017年現在、ライオンズは12球団で最もFAで選手が流出した球団である。
【2016年オフ時点のFA流出選手】
1位 (15人):西武
2位 (12人):日本ハム
3位 (10人):ソフトバンク
4位 (9人) :オリックス、阪神、中日、DeNA
8位 (8人) :広島、巨人、ヤクルト
11位 (7人):ロッテ
12位 (3人):楽天、近鉄
しかも流出した選手のほとんが球史に名を残す有力選手ばかり。
【西武ライオンズの流出選手】
工藤公康、石毛宏典、清原和博、松井稼頭央、豊田清、和田一浩、土肥義弘、細川亨、許銘傑、帆足和幸、中島裕之、片岡治大、涌井秀章、脇谷亮太、岸孝之
FA選手だけで1チーム作れると揶揄されることもある。
【ライオンズFA流出選手打線】
1 センター 松井稼頭央
2 セカンド 片岡治大
3 ショート 中島裕之
4 ファースト 清原和博
5 レフト 和田一浩
6 サード 石毛宏典
7 ライト 脇谷亮太
8 キャッチャー 細川亨
9 ピッチャー -
先発:工藤公康 涌井秀章 岸孝之 帆足和幸
中継ぎ:許銘傑 土肥義弘
抑え:豊田清
まんま私の歴代ベスト西武ライオンズのメンバーにしても良い顔ぶれだ。
西武の歴代FA流出(退団)組VS2018西武が対戦したらどちらが勝つのか【パワプロ2018】
また、西武ライオンズの場合は資金力の問題でFAで獲得した選手も少ない。
【FA選手獲得ランキング】
- 1位 巨人(23人)
- 2位 ソフトバンク(13人)
- 3位 阪神(10人)
- 4位 DeNA(9人)
- 5位 中日(6人)
- 6位 オリックス(5人)
- 7位 ヤクルト(4人)
- 8位 ロッテ、西武(3人)
- 10位 楽天(3人)
- 11位 日本ハム、近鉄(1人)
- 13位 広島(0人)
多くの選手を流出し、ほとんど選手を獲得しないライオンズ。
ファンはそんな球団の対応に対して、少なからず怒りを感じている。
ライオンズに所属していた選手が同一リーグのライバル球団へ移籍するのも、怒りに拍車を掛けている状況だ。
【近年の主なライオンズ選手のパ・リーグ内移籍】
- 岸孝之、浅村栄斗→楽天
- 涌井秀章→ロッテ
- 細川亨、帆足和幸→ソフトバンク
今回岸孝之選手の移籍先がセ・リーグやメジャーリーグであれば、ここまで大きな事態にはならなかっただろう。
しかし、あろうことかライバルチームの楽天に移籍したことが西武ファンにとっては許せなかったのだ。
ましてや現在楽天は絶好調の首位。
対するライオンズは借金生活の4位。
現在の状況も相まって一部のライオンズファンの怒りを買ってしまったのだ。
3連続Bクラスの低迷
選手が相次いで流出しているライオンズ。
当然戦力を維持するのは非常に難しい。
2014年~2016年の3年間で西武は3年連続でBクラスに転落している。
2007年にBクラスに落ちるまで、連続Aクラスの日本プロ野球記録(25年連続Aクラス)を持っていたかつての黄金時代の姿は影を潜めている。
今回移籍した岸孝之選手は2014年~2016年の3年間大型契約を結んでいた。
2014年こそ13勝4敗と活躍したものの、以降は2015年→5勝6敗、2016年9勝7敗と故障続きで本来の力を発揮できなかった。
巨額の大型契約を結んだエースが年間通して働けれなければ、チームが浮上するのは難しい。
ここ3年のチームの不調と岸孝之選手の契約期間中の不調が重なったことも、西武ファンが岸選手に対して不快感を感じてしまった要因だ。
岸孝之選手への想いが強いからこそ
なぜここまで岸孝之選手へのブーイングが巻き起こったのか。
その最大の要因は西武ファンが岸孝之選手のことを好きだったからだ。
前述した通り、岸孝之選手は希望枠で西武ライオンズへ入団している。
その理由は二つ。
- 無名時代から目を掛けてくれていた
- 尊敬する西口文也選手がいた
岸孝之選手は高校時代無名の選手だった。
大学も中央球界ではなく無名の東北学院大学。
しかし、西武は早くから岸孝之選手の素質を見抜き、熱心に動向を追っていた。
また、元西武のエース西口文也投手に憧れていたことも決めてになって、岸選手は西武ライオンズ入団を選んだ。
地元の東北楽天ゴールデンイーグルス、人気球団の読売ジャイアンツからの誘いを蹴ってまで。
そして、岸選手はプロ二年目の2008年の日本シリーズで球史に残る活躍を見せた。
第6戦に岸選手の好投で、3勝3敗に持ち込んだ。
その時のインタビューで岸選手は「西口さんに日本シリーズで投げて欲しかった」とコメントした。
西口文也選手は現役通算182勝の大投手。
しかし、日本シリーズは5回出場し7回登板したが0勝5敗で一度も勝つことができなかった。
そんな憧れの西口文也選手に日本シリーズで投げて欲しいとコメントした岸孝之のインタビューを観て、多くのライオンズファンは胸を打たれた。
西口文也選手に勝ちはつかなかったものの、結果ライオンズは日本一に輝いた。
ライオンズはそれ以来日本一どころか、リーグ優勝から遠ざかっている。
その時の輝かしい思い出が鮮烈に残っているライオンズファンはどうしてももう一度岸孝之選手と共にリーグ優勝をしたいのだ。
岸選手はライオンズ時代のプロ10年間で二桁勝利7度、勝ち越し7度、勝率.613、最高勝率(2014年)とエースとして抜群の安定感を発揮した。
また性格も温厚で、西武時代のチームメイト菊池雄星からは、「あんなに優しい人はいない。本気で他人の立場になってくれる」と言われるほど。
野球選手として実力、人柄、端正なマスク、抜群のスタイルなど、多くの魅力に溢れていた岸選手。
実力の大きさと、名残惜しさがあるからこそブーイングが生まれる。
岸孝之選手がライオンズファンにとって偉大だったからこそ、ライオンズファンはブーイングを送ってしまったのだ。
言い方は悪いが、出て行っても対して影響はない選手にブーイングは生まれない。
元カレが新しい恋人と仲良くしているのを見せつけられる感覚
ここまでの話は野球ファンでない人にとってわかりづらい感覚だろう。
そこで、少しでも一般の方に西武ファンの心情をわかってもらうために、私なりに今回の件を一般的な恋愛話に置き換えてみた。
今回の件を例えるなら、「元カレが新しい恋人と仲良くしているのを見せつけられる感覚」に似ている。
ここでいう元カレは岸選手。
22歳の頃から付き合い(西武入団)初めた二人(ファンと岸選手)。
しかし、カレには昔から仲良くしている相手(楽天&仙台)がいる。
ただ、カレは昔から仲良くしている相手からの誘いを断って、自分のもとに来てくれた。
付き合って2年目に一生の思い出に残る経験(日本一)をした二人。
カレが29歳の時には生涯付き合うかのような態度(FA権を行使せずに3年契約)を示してくれた。
しかし、30歳になってからのカレとは中々上手くいかない(ここ2年怪我がちで、満足な結果を残せない)。
そんな中、32歳の時にカレは将来のことに悩みはじめた(FA権の行使)。
懸命に引き止めたが、彼が下した決断は昔の幼馴染(楽天&仙台)との結婚(楽天への移籍)。
彼は「お前のことを嫌いになったわけじゃない」と言って、家に最後の挨拶に来る(西武のファン感謝デー参加)。
その後、彼は新しい恋人の色に染まっていく(楽天のユニフォーム)。
しかも、楽しそうにしている姿を目の当たりにしなければならない(連日のニュースなど)。
自分はカレがいなくなって以降楽しくない(チームは借金生活で下位)。
なのに彼は順風満帆(チームは首位独走)。
そして、あろうことか彼は新しい恋人と一緒に元カノの家に遊びに来る(メットライフドームでの西武戦)。
そのうえカレは元カノに感謝していると口にする。
こうして置き換えてみると、いかに西武ファンが辛い思いをしているかお分かり頂けるだろう。
野球ファン以外にはわかりづらい感覚かもしれないが、これがファン心理というものだ。
※注:ちなみに私は岸選手に恋愛感情を抱いているわけではありません。
岸孝之選手のライオンズへの想い
岸選手は最後までライオンズのチームメイトを愛していた。
しかし、自身が抱く「チーム愛」と「球団愛」が別物であると感じるようになってしまった。
ファンには見えない部分で、岸選手と球団の考えはすれ違ってしまったようだ。
その結果岸選手は移籍を決意した。
岸選手は移籍決定後の西武プリンスドーム(※当時 現メットライフドーム)で行われたファン感謝イベントに参加した。
きょうこのファン感に参加していいものか、すごく悩みましたが、今まで支えてくださったファンの皆様に、あいさつせずにいなくなるのは嫌だったので、あいさつさせいただきます。この10年間、どんなときも温かく声援頂いて、温かく見守って支えて頂き、今の自分がいると思います。本当に10年間、お世話になりました」と感謝を口にした。
一部のファンからは岸選手のファン感参加に批判的な声が上がった。
それでも岸孝之は自分がお世話になった西武球団、チームメイト、ファンに感謝の気持ちを述べたい想いからファン感に参加した。
この挨拶の時、岸選手は目を真っ赤にしていた。
こみ上げるものを抑えるあまり、予定したよりも短い挨拶になってしまった。
そのことで「思いは伝わったのだろうか」。と後悔の念を周囲に漏らしたそうだ。
その岸選手の誠意も虚しく、一部のファンからは心無いブーイングが飛んだ。
しかし、全てのファンがそうだったわけではない。
試合前に先発がコールされたときも、マウンドに上がったときも、そして2回に女房役の足立がマウンドに向かった際にもブーイングが起こった。
「(ブーイング)されるだろうと思っていたので、気にしなかった」。
ブルペンではヤジも飛んだ。
「おまえ、そのユニホーム似合わねえんだよ!」。
スタンドを振り返ったが、小さな子供が「岸くん、おかえり」というボードを持っていた。
これを見て「落ち着いた」と平常心で臨めた。
引用:大ブーイングと「おかえり」ボード 楽天・岸 古巣斬りで12球団勝利王手― スポニチ Sponichi Annex 野球
全ての人が納得する選択はない。
しかし、岸選手の決断を応援している人がいる。
もちろん西武ファンの中にも。
元エースと4番の真っ向勝負
この試合、岸投手はかつてのチームメイト中村選手に試合度外視の真っ向勝負を見せた。
4番が打った!埼玉西武(@lions_official)・中村選手の完璧なホームラン!https://t.co/tfpryHTqft #seibulions
— パ・リーグTV公式 (@PacificleagueTV) 2017年5月7日
岸は感情的なスタンドとは対照的に、勝負に心を躍らせた。3点リードの7回1死、打席には中村。カウント1ボール2ストライクからの5球目だった。「思いっきり投げました」と珍しく力勝負を選んだ。この日最速149キロの直球は高めに浮き、バックスクリーン左の場外まで持っていかれた。
「同じチームにいても嫌だなと思っていた打線と真剣勝負できるという楽しみがあったし、力でやってみたいという気持ちはあった。3点差あったので。今度はそういう考えで投げないようにしたい。反省ですね」
実はかつてのエース涌井秀章選手もロッテ移籍後の凱旋試合で中村剛也選手に真っ向勝負を挑んで、一発を浴びたことがある。
かつてのエースたちと現4番の力と力の真っ向勝負。
贔屓球団の勝利する姿を見るのも野球の楽しみ方の一つ。
そして、こうした元エースとスラッガーの真っ向勝負を観られるのもまたプロ野球の醍醐味の一つ。
かつて海の向こうメジャーリーグで元ジャイアンツの4番とエースの松井秀喜VS上原浩治という戦いがあった。
もし贔屓の主砲とエースが対決したらどうなるか。
そんな戦いが観られるのも、移籍があるプロ野球の楽しみ。
そして、これは私の推測だが岸選手は打たれるとわかって打たせたのかもしれない。
「心優しい岸選手は敗色濃厚の西武ファンに中村選手のホームランをプレゼントしたのでは?」
などど私は思ってしまった。
もちろんこれは敗退行為ではない。
ただ、実際あの瞬間西武ファンのボルテージは最高潮に高まった。
そして、この中村剛也の一発は清原和博氏が持っていた西武球団の通算打点記録を更新するものだった。
現4番が新たな西武の歴史を更新する一方で、かつてのエースは敵チームのエースとして一歩を踏み出した。
試合後のインタビューで岸選手が口にした「また仙台でよろしくお願いします。」の一言。
これは西武ファンに向けた最後の別れの一言だったのだろう。
今回の一件に対する私の思い
ブーイングをしたファンの方、岸選手を心良く思わない人の気持ちはわかる。
そして、私はブーイングをやめるべきだとは言わない。
なぜならブーイングするのも一つの野球ファンとしてのスタイルだ。
そして選手がFAで移籍することに反発するのもまた一つの野球ファンのあり方だ。
それに対して私はどうこう言うつもりはない。
ただ、今回の記事を通して私が伝えたかったのは、全ての西武ファンが岸選手を憎んでいないということ。
そして、岸選手が移籍する過程で様々な苦悩があったことを西武ファンの方にも理解して欲しい。
そして何より、ブーイングをする西武ファンの行動が理解出来ない人に、西武ファンの心情をわかって欲しかった。
プロ野球選手も一人の人間。
より自分を高く評価して、必要としてくれる環境でプレーする喜び。
家族、友人、知人が多く過ごす、故郷仙台に少しでも貢献したい思い。
球団に改善要求しても中々意見が通らないもどかしさ。
お世話になった人、育ててもらった人、応援してもらった人から批判される辛さ。
これらの様々な想いが、今回の騒動中に岸選手の頭の中を駆け巡った。
さぞ心労が溜まったことだろう。
それでも、冷静に圧巻の投球を続けた岸選手には拍手を贈りたい。
今回の件が起こった背景が十分に理解されず、西武ファン全体と岸孝之選手の心象が悪くなって欲しくないというのが私の願いだ。
まとめ
現在他球団で活躍するライオンズOB。
移籍当初は慣れないものがあったが、時が経つにつれて受け入れられるようになった。
きっと岸選手の楽天のユニフォーム姿もいつか違和感がなくなる日が来る。
その時は元エースではなく、楽天のエースとして相対したい。
そして願わくば、今シーズン好調な楽天とシーズン終盤にペナントをかけた戦いをしたいものだ。
その時、今回のリベンジを果たしたい。
倒すべき好敵手が現れた
そんな風に思う西武ファンが一人でも出てきてくれれば、岸孝之選手も心置きなく故郷仙台でプレー出来るだろう。
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