私たち日本人がインド人に対して抱くイメージとはなんでしょうか。
カレー、ヒンドゥー教、映画、詐欺、数学、ヨガ、英語、ITなどなど様々なことが想像されるでしょう。
しかし、中にはインドに対して悪い印象を抱いている方も多いでしょう。
よく言われるのはインドに旅行に行った人は「また行きたくなる人と」と「二度と行きたくなくなる」人に分かれるといいます。※私は後者かも(笑)
それだけインド旅行は良い意味でも悪い意味でも、様々な体験を出来るのです。
しかし、私たちがイメージしたり、実際に目の当たりにするインドの姿は私たちが理解・認識不足のせいで正しく見れていないものもあります。
そのことを教えてくれるのが今回ご紹介する『インド人の謎』というシンプルなタイトルの本です。
内容はインドのトイレ文化から、カースト制度、仏教、恋愛、安宿、観光など様々なことについて書かれています。
インドについて少しでも興味がある方なら必見の本です。
早速ご紹介していきます。
目次
「インド人の謎」とは
内容
インド滞在12年――気鋭の研究者が、インドの「謎」を解く!
神秘、混沌、群衆……インドにはとかく謎めいたイメージがつきまといます。
こうしたイメージは、興味をかき立てるだけでなく、往々にして私たちとインドとの心理的な距離を拡げてしまいます。
そこで、なにはともあれ「謎のヴェール」をいったん剥ぎ取ってしまおう、というのが本書の趣旨です。
なぜ、カレーばかり食べているのか? なぜ、インド人は数学ができるのか? なぜ、物乞いが多いのか? 本書はこれらの疑問に、歴史・地理・文化といった分野の知見を駆使してお答えしていきます。
そして、「謎のヴェール」を剥ぎ取った時、より魅力的なインドの素顔が見えてくるはずです。
さあ、ともにインドの素顔を確かめる旅に出ましょう!
冒頭でお伝えした通り、歴史・地理・文化などのあらゆる側面からインドの実像について書かれた本です。
著者について
拓 徹
カシミール研究者
1971年生まれ、愛知県出身。
専門は現代カシミールの社会史・政治史。2000年から2012年まで、インドはジャンムー・カシミール州の冬の州都・ジャンムーに滞在。
多様なバックグラウンドを持つ学生たち、道をふさぐ牛、そして教室に迷い込んでくる野良犬やリスなど、さまざまな価値観と生き物に囲まれながら研究に従事し、州立ジャンムー大学で博士号(社会学)取得。
帰国後、カシミールの禁酒運動についての研究報告が2015年度日本南アジア学会賞を受賞。
一方で、『キネマ旬報』など一般向けの媒体にも寄稿している。
本書が初の単著となる。現在、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科客員准教授、人間文化研究機構(NIHU)総合人間文化研究推進センター研究員。
インド滞在歴12年に及ぶ著者は研究者でもあり、1人のインド滞在経験者でもあるので、そこで得た知見の数々は本物です。
この本のテーマと対象者
テーマ
この本のテーマはずばり「インドへの誤解を解く」ことです。
日本人がインドの観光地で味わういやな気持ちの原因をつきとめ、それらを振り払ってほしいと願って書いたのが本書です。
と筆者が本書で述べられている通り、本書は私たち日本人がインド人に対して頂いている誤解を解きたいという筆者の願いが具現化される形で生まれた本です。
実際に本を読んで頂ければわかるのですが、日本人が抱くインドへの誤解に筆者が胸を痛めていることがありありと伝わってきます。
対象者
対象者はインドに興味がある人全てです。
特にインド旅行に行って嫌な思いをした人がこの本を読めば少しは考えが変わるかもしれません。
実際、私もインド旅行に行ったものの1人としてインド滞在時に感じた謎や疑問の数々をこの本で解きほぐすことが出来ました。
私が気になったポイント
では、ここから私が本書を読んで気になったポイントをいくつかご紹介していきます。
カースト制度が今もなおインドに与える影響
インドと言えばカースト制度を頭に思い浮かべる方も多いでしょう。
正式に廃止されて今もなおこの制度がインド人に与える影響は大きいのです。
現代インド人の生活でカーストの影響が顕著にあらわれるのは、主に就学、結婚、就職、選挙の局面においてです。
上記に上げた局面は人生の中でも大きなウェイトを占める重要な局面です。
中でも私が気になったのは留保制度なる弱者集団支援のシステムです。
留保制度とは
弱者集団出身者のために入学者数や議員数に一定の留保枠を設け、優先的に入学・当選させる制度です。
一見有効に見えるこのシステムですが、実態は全てが上手くいっているわけではないそうです。
留保出身者と知られると「あいつは弱者集団集団出身だからここに入れた」という差別意識が生まれてしまい、一種の壁が出来てしまいます。
また、留保制度を使って就職・就学・出世して貧困から逃れると今度は元のコミュニティから「裏切り者・自分だけ」という妬み・嫉みを受けてしまうそうです。
ようは元のコミュニティにも新たなコミュニティからも敬遠されてしまうのです。
現在、この留保制度についてはインド中でも論争が続いているそうです。
就職にも影響が
インドでは、民間企業は基本的に同族経営です。
要は古くからの伝統で同族経営だったため、基本的に同階級者同士で会社を経営しているケースが多いそうです。
ですので、階級違いのものが就職できないという問題が就職時に今もなお影響してしまうのが実情だそうです。
貧困への意識
現在、わたしたち日本人の多くは高度経済成長期以降に生まれ育った世代に属しており、社会の中に大きな貧困が存在する状況を基本的に知りません。
だから、こういう状況に直面すると、どうしてもとまどいが生じます。
私は平成生まれの世代なのですが、正直貧困に対してどう向き合ってよいのかわかりません。
フィリピンやタイ、インドなど同じアジアの中では今なお街の中で貧困にあえぐ物乞いホームレスの人たちを頻繁に目にします。
その状況に出くわした時私たちがどう対応すれば良いのか。
この本では安宿などで働かされる少年少女たちとの交わり方について書かれていました。
あのキラキラした目でチップを訴えかけてくる彼らにどう対応すれば良いのか。
インド旅行でこの悩みに直面した方にとって必見のパートです。
ちなみにですが、インドでは「物乞いマフィア」なる卑劣な犯罪集団が存在します。
子供たちの手足を切断して、哀れみを誘って物乞いをさせる集団のことです。
そこで子供たちが得た収益は全てマフィアのものになるのです。
映画『スラムドック$ミリオネア』でもそのようなシーンが出てきます。
本当に許せないこのような犯罪がインドには蔓延しています。
しかし、残念なことに詳細がつかめていないというのが実態だそうです。
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インド人の動物に対する関わり方
インド人は一般的に、動物に特別な関心を寄せることはなく、またとくにこれを排除することもありません。
インドの街中を歩いていると多くの動物に遭遇します。
牛、犬、猪、馬など。
しかし、不思議なことにインドの方はそれらの動物たちに対して無関心です。
特に排除をしようとする様子は見てとれません。
ではかといって日本人のようにペットに服を着せてまで飼うかと言えばそうでもありません。
要は共に生きる者として動物たちとインド人は共存しているのです。
本書の中で面白いエピソードがあったのがインドの犬についてです。
インドの犬は日本で見かける犬とは違ってかなり無防備で無警戒です。
人間から襲われることは全く意識していません。
その理由はもし犬に暴力を振るうものがいれば、その人間を人間側のコミュニティが排除することを犬が知っているからだそうです。
「共に生きるものたちを全て受け入れ、その秩序を乱す物は排除する。」
それは人間・動物の分け隔てなく平等なのです。
一般的に適当と言われるインド人の心の中に寛容な心があるのでしょう。
まとめ
今回ご紹介した話以外にもこの本には興味深い話が随所にあります。
インドのお見合い結婚文化が引き起こす浮気事情やインド人は中国人とアラブ人以外の外国人のことを「アングレーズ」とひとくくりにしている話など。
数字や典型的なイメージからは測れないインド人の奥深さや実態が描かれた本書。
何より筆者のインドにかける温かい想いに溢れた語り口は私たち日本人がインドに対して抱いているイメージを良い方に払拭してくれること間違いなしです。
興味がある方はお手に取られてみてください。
それでは、さようなら!